ポルトガルの住宅費高騰ー数字で見る「住めない」の現実

先日マドリードをはじめスペインの都市で住宅費の高騰にかかわるデモが行われたとニュースで見かけました。観光ブームによる民泊の急増、公共賃貸住宅のストックがそもそも少ない中での移民増加などによる住宅需要の増加などで、住宅費が前年比で13%増と高騰しているとのことです。

この話、実は対岸の火事ではなく、ポルトガルの都市部でも大きい社会問題となっています。そもそも可処分所得が決して高くないこの国で、住宅費の高騰が個人の生活に与えうる打撃は、少し考えれば想像がつくと思います。ここポルトガルの主要都市であるリスボンやポルトでも年々住宅費が上昇しており、今や子供をリスボンやポルトの大学に下宿させて行かせることが、ひと昔前に比べて容易ではなくなっています。

このような状況を当然国が放置できるはずもなく、ここ数年でいくつかの対策が打たれているのですが、その前にまず「実際どのくらい高いのか」を見ていきたいと思います。


どのくらい高いのか

まず、OECDの実質住宅価格指数(Real House Price Index)から私個人の独断と偏見で抽出した国を比較したグラフを確認してみましょう。

実質住宅価格指数(Real House Price Index)の推移 2000〜2025年 2015年=100(基準年) 季節調整済み 年次データ
出典:OECD Analytical House Prices Indicators
※ 実質住宅価格指数とは、名目の住宅価格を物価(民間消費デフレーター)で調整した指数。インフレの影響を除いた「実際の購買力ベースでの価格変化」を示す。
※ 2015年を100として、それより高ければ「2015年より実質的に高い」、低ければ「安い」ことを意味する。
※ ポルトガルの2025年値(206.4)は暫定値の可能性がある。

まず、実質住宅価格を2015年を100として比較したグラフです。これだけで、まずポルトガルにおける住宅価格が2015年を100として2倍以上高騰していることが分かります。先のスペインも2025年の数値は142.6となっており、ポルトガル程ではありませんが大幅に上昇していることが分かります。

次に住宅価格の対所得との関係を表したグラフの各国比較です。これは、名目住宅価格指数を一人当たり名目可処分所得で割った指数で、数値が上がるほど「所得に対して住宅が割高になった(買いにくくなった)ことを示します。こちらも2015年を100とした数値です。

住宅価格対所得比率(Price to Income Ratio)の推移 2000〜2025年
四半期データ・2015年=100(基準年)・季節調整済み
出典:OECD Analytical House Prices Indicators

住宅価格対所得比率(Price to Income Ratio)の推移 2000〜2025年
四半期データ・2015年=100(基準年)・季節調整済み
出典:OECD Analytical House Prices Indicators
※ 価格対所得比率とは、名目住宅価格指数を一人当たり名目可処分所得で割った指数(2015年=100)。数値が上がるほど「所得に対して住宅が割高になった(買いにくくなった)」ことを示す。
※ フランスの最新値は2026-Q1(93.6)、その他は2025-Q4まで。
※ 横軸は各年Q1のみ表示。

こちらの数値もポルトガルが圧倒的に他国を引き離しています。スペインでデモが起こるなら、ポルトガルは言わずもがな、なことがここから読み取れると思います。

ここまでは、住宅の購入価格の話ですが、それなら賃貸ならどうなのでしょうか。ここでEurostatの出している住宅賃料指数(HICP・CP041)の推移を見てみましょう。こちらも、2015年を100とした数値です。

住宅賃料指数(HICP・CP041)の推移 2000〜2025年
年平均値・2015年=100(基準年)
出典:Eurostat, HICP monthly data
※ HICP(消費者物価指数)の住宅賃料項目(CP041 実際の住宅賃料)。新規・既存契約を含む全契約の家賃変動を反映するため、新規契約のみの相場より上昇が穏やかに見える傾向がある。
※ 2025年は1〜12月の平均値。日本のデータはこのデータセットに含まれていない。

こちらは新規契約と既存契約が含まれています。既存契約はそう簡単に賃料を上げる訳にはいかないので、比較的穏やかな上昇率となっているのでしょう。この点、新規賃貸契約の実績値を確認してみましょう。

ポルトガル統計機関(INE)が出している2025年Q1のデータを見ると、新規賃貸契約の家賃はリスボン市で1㎡あたり€16となっています。普通の広さ、たとえば70㎡のアパートを借りようとすると、月€1,100を超えることになります。

では、リスボンに住む人の収入はどのくらいかというと、INEの2023年データになりますが、所得税引後(社会保険料控除前)の所得中央値が月およそ€1,190です。つまり、ざっくりではありますが、70㎡を借りたら、収入のほぼ全部が家賃に消える計算になります。50㎡に絞っても67%です。

ポルトも楽ではなく、家賃は約€13/㎡、所得中央値は月€1,038ほどなので、70㎡で負担率は88%程度になります。

もちろん上記の正式な数字に出てこない所得もあるかもしれませんが、この数字から見る限りでは、もはや「家賃が高い」というより、「国民の普通の給与では単身者が一人で新規賃貸は無理」という方が正確かもしれません。私が住むヴィラ・レアルはポルトガル国内では比較的発展している沿岸部から約100㎞離れた内陸の町ですが、近年、新築マンションの建設が目立つようになりました。そんな内陸の町でも、T3(3LDK相当)が余裕で€300,000超えで売り出されています。我が家は、コロナが明ける前、つまり大幅な金融緩和によるインフレの影響を大きく受ける直前に、大家さんの賃料値上げの脅しに屈してたまたまマンションを購入することにしましたが、あの時に決断していなかったら…、と今となっては感謝です。

先に述べたリスボンやポルトよりも低いであろうポルトガル人の所得中央値を勘案すると、地方都市でも、新しく建つ住宅が普通のポルトガル人にとって容易に手の届く価格帯ではないことは明白で、かかる構図は、ポルトガル全土に共通しているのかもしれません。最近、ポルトガルの都市部に住むブラジル人が母国に帰り始めているというニュースを見かけましたが、それもこの延長線上なのでしょう。


空き家が72万戸あるのに、家が足りない

他方、不思議なことに、2021年のデータで少し古いですが、ポルトガルには約72万3,000戸(INE Censos 2021)の空き家があるようです。空き家があるのに住む場所がない、という状況がなぜ起きるのかというと、いくつかの理由が絡み合っています。

OECD Economic Surveys: Portugal 2026(2026年1月)によると、観光客向け民泊(Alojamento Local)の急増やゴールデンビザ(現在は不動産取得ルートは廃止)の導入による外国人投資家の流入だけが不動産高騰の理由ではなく、ポルトガルの不動産をめぐる構造的問題が指摘されています。

例えば、2010年代前半のユーロ危機で建設業が壊滅的な打撃を受け、その後の回復の遅延で供給力が追いついていないこと、建設許可に係る行政の手続きが煩雑で、インフレによる建設コストの高止まりといったことも要因に挙げられています。このほか、低所得者向け公営住宅のストックがOECD加盟国の中で最小クラスであること、ポルトではこのような公営住宅の待機リストが3年を超えていることなどが指摘されています。更に、不動産取得税(IMT)が比較的高いことが住宅の新規取得を困難にしていること、逆に固定資産税(IMI)が低いことが、空き家の放置を容易にしていることを示唆しています。

 

国の対応:「Construir Portugal」という税制改革

では政府は何をしているのでしょうか。

現在のモンテネグロ政権は、「Construir Portugal(ポルトガルを建設せよ)」というプログラム(Proposta de Lei n.º 47/XVII/1.ª)のもと、住宅供給を増やすための税制インセンティブをいくつか打っています。ここでは、個人に関連しそうなところに絞って確認していきたいと思います。

まず、所得税(IRS)法の改正です。

  • 家の賃借人は支払家賃の15%をIRS(所得税)から控除できますが、その控除限度額が増額されました。年間所得金額が一定の条件下の人を除き、2026年は€900、2027年は€1,000となっています(CIRS第78条-E第1項a)、第10条)。

  • 家の賃貸人は、適正な家賃水準(政府の定義する「renda moderada(適正家賃)」)で貸し出した場合に、2029年末取得分までの時限的措置ですが、賃料所得の分離課税税率を25%(CIRS第72条第2項)から10%に引き下げを享受できることになりました(EBF第45条-C第1項)。また、これを事業として行っている場合は、課税対象がその事業所得の50%のみとされることになりました(同条第2項)。

    ちなみに、この「適正家賃」は、上限が€2,300となっており、この金額は2026年最低賃金€920×2.5で算定されています(Decreto-Lei n.º 97/2026 de 20 de maio第2条第2項a))。月額€2,300という数字は、前述した所得税引後の所得金額中央値を勘案すると、相当賃貸人寄りの政策に思えますが、どう思われますか?「リスボンでは家賃月額€2,300以下の住宅が見当たらない」と上限€2,300を擁護したインフラ・住宅担当の大臣の発言に対抗して、後日CNN Portugalが、不動産サイトで調査した結果リスボン・ポルトの賃貸住宅の75%は€2,300以下だったという記事を出して、政策を揶揄していることからも、多くの国民が違和感を覚えた金額だったに違いありません。

  • 以前から、居住用不動産の買い替えに際して、買い替え前の不動産の譲渡によって生じたキャピタルゲインがあっても、一定の条件下で、新たに居住用不動産の取得に譲渡収入が再投資される場合は課税されない、とする所得税法上の優遇措置がありました(CIRS第10条第5項)が、今回は住宅賃貸用不動産に再投資される場合も、所定の条件下で、同様の恩恵を受けられることになりました(同第7項)。

次に不動産取得税(IMT)法の改正です。

  • 譲渡日時点で扶養家族でない35歳以下の納税者が、自己の恒久的住居として専用住宅初めて取得する場合、不動産取得税の支払いが免除されることになりました。ただし、課税標準となるべき価額が€330,539を超えないことを要件としています(CIMT第9条第2項、同第17条第1項b))。
  • 取得者が非居住者である場合は、税率は常に7.5%となります(CIMT第17条第10項)。但し、取得日から起算して2年以内に、ポルトガル国内の税務上の居住者となる場合など、一定の条件下で償還対象となります(同条同項)。

活動家とOECD・EUが言うこと

一方、「Casa para Viver(住める家を)」という100以上の団体が参加するプラットフォームは、家賃規制や借家人の保護を求めて、2026年春時点で既に数回の大規模デモを組織しています。ポルトガル憲法の第65条「住居権」を根拠に国の対応を求める声も上がっています。

OECDおよびEU(欧州委員会)の視点は少し違っていて、問題の根本は税制の構造にあると言います。不動産取得税(IMT)が高いために住み替えが難しく、固定資産税(IMI)が低いために空き家を持ち続けるコストが小さいまま、という歪みが空き家増加と流通不全を生んでいるという指摘です。課税評価額が長年更新されておらず、実態から大きく乖離しているという問題も合わせて、「取引税から保有税へ移行し、空き家に高率課税すべき」というのがOECDおよびEUの共通した提言です(OECD Economic Surveys: Portugal 2026;2026 European Semester: Country Specific Recommendation – Portugal)。


終わりに

「住める家がほしい」という当たり前の訴えに、政策がなかなかかみ合っていないもどかしさは、スペインでもポルトガルでも同じなのかもしれません。この国に住む普通の人達が普通に暮らせる当たり前が戻って来る日がいつか来るのでしょうか。

コメント

  1. 牛坂博則 より:

    住宅価格以外は良いと言う事でもあるのでは。

    やはり移住ならポルトガルが一番ってのは変わってません。

    医療は日本の方がいまは良いけど先はどうなるかわからない。治安も同じ事が言える。

    やはり日本からポルトガルの移住者が増えてるようで、けっこう法外な料金を取る業者もいるようです。

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