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ポルトガルで投資する?ー証券譲渡所得の減税とポルトガル版iDeCo優遇税制

 
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「最近、ファイナンスセミナーを受けて、私も投資を始めたの」義姉の突如の衝撃発言。義姉は今までファイナンスなどとは無縁な生活を送っているような人でしたが、何と最近、証券口座を開いて投資を始めたらしいのです。そんな突然の変貌ぶりにすっかり肩透かしを食らった私。恥ずかしながら告白すると、投資となると腰が重く、社会人になって間もなく手に取った本以降読み漁った投資関連本は計○○冊(恥ずかしくて言えない)、かつ証券口座も持っているものの実質預金口座化しているという情けなさ。そんな中、義姉の行動力にあっさり先を越され、あえなくノックアウト。「トヨタ株も買ってみたの~」と嬉しそうな義姉を目の前に、そうよね、水素自動車頑張って欲しいよね…と力なくつぶやきつつ、笑うに笑えぬ自分の不甲斐なさにうんざり。あ~、こんなことなら、祖父にちゃんと投資を習っておけばよかった!と後悔の嵐。祖父はその昔まだ株式取引が対面しかなかった頃、毎日ラジオでその日の相場を聞きながら、株式投資を趣味としていた人でした。

ま、そんなポルトガル人もビックリのスローな私ですが、多少言い訳を許してもらえるなら、ヨーロッパ在住の日本人の私がなかなか先に進めずグダグダだったのは、日本人向けの本やサイトに書かれているアメリカ市場ETF名の商品は、制度上個人が保有するヨーロッパ所在の口座で買い付けることができなかったり、市場があまりにも多くて(ご想像通り様々な国で取引が可能)どこで取引をしたらいいのか迷ったりと、ちょっとしたいくつかの障壁が初心者の私のとっては大障壁だったのですよ。証券会社のプラットフォーム相手に四苦八苦した挙句、あっさりあきらめてきた黒歴史…最後が少々相場が下がった2023年の秋でした。私が動いていなくても、世の中はちゃんと動いている…そんな中やっと今回のショックで本腰を入れて情報検索していたら、YouTubeでヨーロッパの別の国の人がいろいろ説明してくれている動画を見つけ、そんなダメな私にもやっと一筋の光が…笑。

そんな訳で、2024年から新NISAが開始して、日本でも株式などの金融商品への投資の裾野が益々広がってきたような印象を受けていますが、実は、ポルトガルにもそんな空気が漂い始めています。そんな空気の追い風となるのか、今年発効した投資関連所得の減税制度は、長期投資を目指す人にとっては、朗報。今までは、所有する株式の売却益等には28%(分離課税を選択した場合)の税金がかかっていたのが、この6月の改正で、長期保有の有価証券の売却益等への課税率が引き下げられることになりました(CIRS第43条第5項)。具体的内容は以下の通りです。

  • 保有期間が2年以上5年未満:課税所得額が10%引き
  • 保有期間が5年以上8年未満:課税所得額が20%引き
  • 保有期間が8年以上:課税所得額が30%引き

つまり、8年以上長期保有した有価証券を売却したら、28%×(100%-30%)=19.6%になるということですね。これは、いわゆる規制市場の証券取引だけでなく、オープン型集団投資スキームをとる投資信託などにも適用されます(EBF第22条-A第1項b))。尚、配当金等のインカムゲインは通常通り28%で課税されます。

では、こういった投資を、PPR(Plano Poupança Reforma)でやったらどうなるのでしょう?PPRとは、ポルトガル版iDeCoと言ったらいいのでしょうか、個人型確定拠出年金制度です。iDeCoは拠出額全額を所得控除に回せるのに対し、ポルトガルのPPRは拠出額の20%、しかも以下の通り年齢によって年間の所得控除に回せる上限が決まっています(EBF第21条第2項)。

  • 35歳未満:400ユーロ(÷20%=2,000ユーロの拠出)
  • 35歳以上50歳未満:350ユーロ(÷20%=1,750ユーロの拠出)
  • 50歳以上:300ユーロ(÷20%=1,500ユーロの拠出)

そして、これを一時金または10年以内の分割で換金した場合の所得部分に対する税率は8%と、通常の分離課税の税率28%と比較すると格段に低く設定されています。これに対し、年金として受け取る場合は、年金所得としてカテゴリーHの課税となります(EBF第21条第3項;IRS第5条第3項)。

以前、同じ投資をやるなら税制上優遇されるPPRをやってみようかな♪と、とあるサイトで取り上げている商品を少し検索してみましたが、どれも手数料が2%弱で、たとえ税制上の優遇があっても、永遠にそれだけの手数料が取られると思うと、普通に全世界ETF積み立て投資をした方がいいのでは?と、思い止まった経験があります。精査していないので、もしかしたら手数料の安い商品がない訳ではないのかもしれませんので、悪しからず。

とは言え、今回の改正で興味を引くのは、今まではポルトガル国内の退職給付型金融商品に税制優遇が限定されてきたのが、EU加盟国居住者を対象に起案されたヨーロッパ版PPR(PEPP:pan-European Personal Pension Product)に対象が拡大されたことです(EBF第21条第11項)。つまり、ポルトガルの金融機関が販売するPPRに限らず、その他のヨーロッパの金融機関の販売する認定を受けた退職給付型金融商品も税制優遇の対象になり得る、という理解でいいのでしょうか。ポルトガルではとりあえず税法の整備が行われ、まだ実際の運用を待っている状態のようです。

そうだとすると、ヨーロッパ市場全体での競争となり手数料も下がるのでは、と勝手に都合の良い期待をしながら、もう少し調べてみることに。PEPPは、実は2019年に欧州議会・理事会で議論され、2022年には運用される予定だったようですね。仕事などの理由でEU内を移動することになっても、持ち運びができる、できなくても別のPEPPに乗り換えが無料ででき、手数料も1%以内におさえて、とEU居住者の便宜を図った制度のようです。確かに、こちらではヨーロッパ内の移住は珍しいことではないし、人生の各ステージにおいて住む場所が変わっても、年金拠出を続けられる、という理念はいいんじゃないの、と思いつつ、じゃあ、今どんな商品があるんだろう…、とそのページに飛んで見てみたら、2024年11月26日現在、何とスロヴァキア金融機関の8商品だけでした(https://pepp.eiopa.europa.eu/)。

???という訳で、一体このPEPPの現状は?といくつかのサイトにざっと目を通したところ、どうもうまく運用にこぎつけられていない模様。EUのオフィシャルサイトの2024年9月の記事によると、欧州保険職業年金機構(EIOPA)が公表したスタッフ・ペーパーで、PEPPの普及が限定的である理由と、その普及を妨げている供給サイド、需要サイド、構造的な障壁を克服するために、PEPPの制度設計を改善することを提案しているとのこと。つまり、この制度、ローンチしているといっても実質的にはまだ本格的に機能していないようなのです。ちなみに、その改善案には前述の手数料1%上限が低過ぎるという議論も含まれているようで、ちょっと残念です…。それでも、一般的に変化への対応が遅いポルトガル政府が国内の税制の整備を行ったというのが、なかなか興味深いところです。

蛇足ですが、義姉が開いたドイツの証券口座、現金を置いておくだけでも現在3%超の利息がつくようなので、預金専門(笑)の私も、義姉の真似をして試しに口座を開いてみました。スマホで簡単に開けるのですが、住所の入力がうまくいかず、サポートセンターに修正を依頼するものの、それだけのために行われた何度ものやり取りで消耗…。そんな訳で、住所が不明確だと何かあった時に面倒そうなので、入金したものの一度閉じて来年開き直そうかな…と検討中。正直、サポートセンターは期待できませんが、手数料1ユーロで投資できる、ということなのでもしよかったら。Trade Republicという証券会社です。

 

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Comment

  1. snow より:

    にほんでは税のクサビが50%にもなっていて、やってられんと言いたいところですが。日本人はそう簡単に外には出れません。それでもポルトガルにいてもドイツの証券会社に口座開けるのは大きな一歩かと。

    • goen-portugal より:

      確かに移住にしろ留学や出張にしろ、ヨーロッパ内で国外に出るハードルは、日本から国外に出るのと比べると、気軽さが違いますよね(田舎に閉じこもっている私が言うな!ですが…笑)。最近は、フィンテックの台頭で、金融機関の口座開設も然りです。

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