ポルトガルの税理士独占業務の行方
あれは今年5月。ポルトガルの税理士協会に、「現在税理士の関与が義務づけられている独占業務を任意としたい」という政府の意向が伝えられ、それに税理士協会が猛反対しているというニュースを見かけました。ポルトガルでは、記帳業務や税務申告などをする人をcontabilista certificado(英語で直訳するとcertified accountant)と呼びます。職業名を日本語に直訳すると会計士と勘違いしてしまいそうですが、業務内容から見ると日本でいう税理士に該当します。ちなみに、日本でいう公認会計士、一般に会計監査資格を有する人を、ポルトガルではrevisor oficial de contasといい、権限は完全に区別されています。
本題に戻って説明すると、ポルトガルでは、組織的会計(いわゆる、複式簿記による記帳)を採用して税務申告する場合には、税理士の関与が義務付けられています。ちなみに、この組織的会計による税務申告は、(一部の例外を除き)法人には強制適用ですが、個人は任意です。従って、この組織的会計を採用して税務申告をする場合には、たとえ自分で記帳・申告が可能でも、税理士を雇ってサインをもらう必要があるのです。この点を今回、政府が切り込んできた訳です。つまり、組織的会計を採用する場合でも税理士のサインを不要としましょう、ということです。
これに対する税理士協会の言い分は、「不正や租税回避が増えるので」全面反対。ま、理由はどうあれ、独占業務を開放することはどんな業種であれ激しい抵抗が伴うことは想像に難くないですね。
翻って日本はどうでしょう。日本では、個人事業主や法人が普通に自分で複式簿記を使って会計処理を行い税務申告を行うことについて、税理士雇用を義務付けてはいないでしょう。それぞれの規模や能力によって、税理士にサービスの提供を依頼するかどうかを決める余地があると思います。それでも、税理士事務所は成り立っていますね。だから、ポルトガルも同じな(=問題なく税理士事務所が存続する)んじゃない?という短絡的な結論に落ち着くかというと、社会的・文化的素地を考慮すると難しいかとは思いますが、規模が小さい法人や個人事業主が、その必要性を感じないのでその雇用をやめるという動きは当然あり得るでしょう。
ちなみに現状、税理士の業務は法的に要求されている法人税とそれに関連する会計業務が中心で、個人所得税の申告は税理士でなくてもいいという概念が、私の周りにいる税理士何人かに共通する認識のようです。別件で税理士協会に問い合わせした時に得た情報からも、同様の印象を受けました。つまり、何が言いたいかと言うと、その要否に関係なく「法的に強制されなければ税理士を雇用しない」という動きは、私が勝手に理解するポルトガル人気質(笑)からすると十分にあり得る話であり、協会の抗議も、理由はともかく理解できることだということです。
この後、しばらくして結局、「我々はその地位を守り抜きました~(=何の変更もない)!」という税理士協会会長のメッセージ表明があり、一旦問題は終結したかのようです。ニュースからは、税理士権限を別の有資格者、例えば弁護士等にも広げるということなのか、一般の個人にも開放するということなのか、までは明確には分かりませんでしたが、一般の個人にも開放される日が来れば、自由度が増えますね。制度改正が先か、AI等の導入で手続きの更なる簡便化が先か、様子を見守りたいと思います。