ドウロ、トラズ・オズ・モンテス地方の愉しみ方

日本語の話し言葉って難しい!

2019/01/16
 
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皆さん、”Para(Stop)!”ってどう訳しますか?

ポルトガル語日本語辞書編纂のお手伝いをしていて、話し言葉をポルトガル語から日本語に訳すときにふと思うことがあります。ポルトガル語では(その他ラテン語を起源としている言語はそうだと思いますが)、動詞の活用形で動作の主体が分かるため、主語が省略されていても誰の話をしているのか想像がつき、英語のように主語(”I”とか”You”とか)が語られる必要性は必ずしもありません。

その点、日本語ではどうかというと、動詞だけでは動作の主体は分からないのですが、話し言葉の中で人称代名詞が語られることってとても少ないですよね。通常話しているときに、語学の授業に出てくるような「あなた」とか「彼」とかいう言葉が出てくるでしょうか。非常に稀だと思います。「あなた」と話しているときは、誰の話をしているのか想像がつくので、「あなたのお名前は?」ではなく「お名前は?」と尋ねれば済むし、第三者の話をするときは(相手の話であっても)「彼が」というよりは、「田中さんが」と具体的固有名詞を使うか、受動態で済ますのが一般的なのではないでしょうか。人称代名詞である「あなた」とか「彼」とかを辞書の例文に含めると、勢い不自然な、語学的日本語になります。でも、辞書を使う人には理解してもらう必要があるので、具体的に訳すことに意味があるということになるのでしょう。

そして、日本語のもう一つ独特な点は、言葉遣いがその主体によって変わってくる性質があるということです。分かりやすいところでは男性が使う表現、女性が使う表現といった性差があります。それ以外にも、年配の方が使いそうな表現、若者が使いそうな表現など、いろいろ言葉を発する本人とその受け手によって、語尾を含む言葉遣いが変わってくると思います。例えば”Para(Stop)!”と言えば、日本語なら「やめて!」「やめな!」「やめろ!」「やめろよ!」「やめろって!」とかいろいろ考えられるし、関西人なら「やめてーなー!」とか「やめてーやー!」とか言ったりするのかもしれません(笑)。

ちなみに、ポルトガルのポルトガル語では二人称単数には2通りあって、親しい相手には”Tu(トゥ)”、そうでなかったり敬意を払うべき相手には”Você(ヴォセ)”や”Senhor(a)(セニョール(ラ))”を使います。その結果、使用される動詞の活用形も異なってきます。前述の”Para!”は”Tu”の相手に対する命令形です。

じゃあ、冒頭の質問に戻ります。”Para(Stop)!”はどう訳しますか?命令形なら受け手は二人称に決まっているんだから省略してもいいとも思えますが、二人称複数と区別するため敢えてつけるとしたら、「やめて、あなた!」んー、個人的には、ドラマの中で女性が男性に切羽詰まって叫んでいる光景を思い浮かべます(笑)。じゃ、「あなた」の代わりに「君」「あんた」「おまえ」はたまた「てめえ」と呼びかけたとしたら…。「やめて、おまえ!」はとっても不自然ですよね?日本語を母国語とする人なら動詞の語尾を変えたい衝動に駆られるはず。そう、言葉を発する人物像によって、言葉遣い、語尾が変化するのです。辞書の例文の場合、この言葉を発している人とその受け手がどんな人なのかはっきりしないし、映画のように話の流れがある訳ではないので、できるだけニュートラルな言葉選びをすることになるのでしょう。

そうやって、例文の主体を男性にしてみたり、女性にしてみたり、言葉の着せ替え人形という地味な一人遊び…おーっと、遊んでいる場合ではなかった…!それにしても、外国人が日本語を学ぶのって本当に大変だなー、と思うのはこういうちょっとしたニュアンスの理解。そして、逆に私がポルトガル語に存在するニュアンスを完全に理解できる日がいつか来るのだろうか(いや、来ないだろうー反語)と思う今日この頃でした…。

 

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