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ポルトガルの法人税について概要をまとめてみました

2023/12/29
 
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ポルトガルでフリーランスも含め事業を行う場合、通常、最初は個人事業主として所得税を納付することから始めるかもしれません。最初は簡便法を採用していても、所得が大きくなってくると、税理士を雇って組織的会計に移行することもあるでしょう。もちろんそのままでもいいのですが、そのうち節税や出資金の範囲で責任を限定する観点から、法人化しようかなと思ったりするかもしれません。その場合、同じ所得でも個人ではなく法人の所得には法人税法が適用されます。という訳で、法人化ということがふと頭をもたげた時に参考になりそうな情報をここでまとめてみたいと思います。

法人化するとなると法人設立を検討することになると思いますが、ここでは法人税関連に焦点を当てて書きたいと思います。

ポルトガルの法人税は、日本と同様、会計上の利益に加算・減算して課税所得を算定し、これに基づき税額を算出するスタイルです。以下、カッコ内は特に断りがない限り法人税法(CIRC)の条文を引用します。

税率

まず、税率が一番気になるところだと思います。基本税率は21%(本国の税率です。マデイラ、アソーレスはいずれも14.7%の軽減税率)です(第87条第1項)。このうち最初の50千ユーロは、中小企業については17%(本国の税率です。マデイラ、アソーレスはいずれも11.9%の軽減税率)が適用されます(第87条第2項)。このほか、内陸地域に所在する零細・中小企業に至っては12.5%まで軽減税率が認められており(EBF第41条-B第1項)、本優遇税制については、マデイラ、アソーレスでは更に30%の税率の軽減が認められています(EBF第41条-B第5項;自治州2023年予算)。ちなみに、ポルトガル国内に恒久的施設を有しない事業体のポルトガル源泉所得の税率は一部の例外を除いて25%となります(第87条第4項)。尚、所在地によっては地方税(derrama municipal)が最大1.5%かかります(各地方自治体が任意に決定できるので、かからない場所もあります)。どこで開業するかも法人税法上の戦略となり得るということですね。更に法人所得が年間1.5百万ユーロを超えると、追加的に3%から最大9%の法人税が付加(derrama estadual)され、以上を勘案すると、年間所得35百万ユーロを超える部分については、最大計31.5%の税率がかかることになります(第87条-A)。

簡便法の適用

法人は原則税理士の監督の下、組織的会計(contabilidade organizada)を行うことが要求されます。組織的会計とは、費用(損金)を通常通り収益(益金)から差し引いて利益(所得)を算定する方法です。え?そんなん当たり前やん、と思われるかもしれませんが、この点は簡便法(regime simplificado)との比較で説明した方が分かりやすいかと思います。簡便法とは、総収益に業種ごとに決められた係数を適用し、税率を適用する所得額を見積もるという方法で、実際に発生した費用額とは関係なく、税率を適用する課税所得が算定されます。個人の所得税はこの簡便法が原則ですが、法人の場合は、その選択により簡便法の適用が認められています。対象となる法人は、年間所得額が20万ユーロ、総資産額が50万ユーロを超えない法人であること、零細企業向け会計基準を適用していること等、その他いくつかの要件を満たす法人です(第86条-A第1項)。大枠は、個人に適用される所得税の簡便法と同様ですが、個人事業主・フリーランサーが法人税法の枠内で課税を受けることを検討する場合に特筆すべき点がいくつかあります。

  1. 適用を受けるためには、事業活動開始届時、又は適用を受けようとする年の2か月目までに申請が必要です(第86条-A第3項)。
  2. 個人に適用される所得税同様に収益に適用される係数(収益に適用して利益相当部分を算定する定率)のうち、商品・製品の販売、飲食、宿泊関連事業(民泊は除く)に適用される係数は0.04と低く、個人事業主として同様の事業所得を得ることを考えた場合、検討の余地があります(第86条-B第1項)。尚、以前は課税されなかった仮想通貨による所得は2022年の改正で課税対象となっていますので、お忘れなく(同条同項e) i))。
  3. 商品・製品の販売、飲食、宿泊関連事業(民泊は除く)等一部の事業活動を行う場合、初年度・翌年度は、適用される係数をそれぞれ50%、25%減少させることができます(第86条-B第5項)。
  4. 一部の加算税を免れます(加算税参照)。
  5. 控除税額は、第91条の外国税額控除に限られます(通常なら享受できる全控除は受けられません)。
  6. 計算方法を確認して頂ければ分かると思いますが、この方法は必ず所得が発生することを想定しています。そのため、欠損金が予想される場合は、適用しない方がいいとも言えます。

損金算入できない費用

損金算入できない費用については、第23条-Aで規定されています。法人税等の所得に係る税金や特定業種への(過大な)寄附金以外に、証憑のない費用、証憑があっても所定の情報が欠けている費用、出張手当や移動行程表がない従業員の私用車の業務使用に係る精算費用、所定の額を超える車両のリース料(車両購入時の減価償却費損金算入限度額があることとの調和をとっています)、事業活動で使用されるわけではないレジャーボートや飛行機の購入やリース費用、更にはその売却損失、通常消費を超えていると認められるガソリン代等燃料費、社員(持分所有者)が会社に貸付する場合の所定の料率を超える支払利息、翌課税期間末までに支払われない利益分配額、持分を直接・間接保有する会社役員への所定額を超える配当額、正当化できないオフショアへの支出等、節税に利用されやすそうな費用がいろいろ細かく具体的に規定されています。

尚、その費用自体が損金算入できない訳ではないのですが、資金調達コスト(ex. 利息)の損金算入には、1百万ユーロかEBITDAの30%かいずれか大きい金額という上限が存在します(第67条第1項)。これを超えた金額又は未使用枠は翌5年間繰り越されます(同条第2項第3項)。

加算税

損金算入できない費用(第23条-A)を損金算入した場合は、罰則的課税がなされます(第88条)。以下その内容につき個人的に重要だと思う点をピックアップして述べます。

  1. 証憑のない支出は、損金算入できないだけでなく、50%の加算税が課税されます(同条第1項)。
  2. 事業活動で使用される場合(ex. 交通機関事業に使用している車両)を除く乗用車、オートバイ関連費用(減価償却費、リース料、保険料、維持費、燃料費、税金)については、以下の課税が行われます(電動車両を除く)。取得価額25,000ユーロ未満の車両の場合10%(プラグインハイブリッド車5%;GPL・GNV車7.5%);取得価額25,000ユーロ以上35,000ユーロ未満の車両の場合27.5%(プラグインハイブリッド車10%;GPL・GNV車15%);取得価額35,000ユーロ以上の車両の場合35%(プラグインハイブリッド車17.5%;GPL・GNV車27.5%)(同条第3、5、6、17、18項)ちなみに、企業から役員や労働者に支給される乗用車の私用については、当事者間で書面契約が必要で、これに基づき個人が受けている恩恵部分は所得税法に従い算定され、カテゴリーA所得として個人に課税されます。しかし、この契約が交わされていない場合は、法人は当該車両の取得価額に応じて、法人が負担した車両関連費用についても前述の課税が行われます(同条第6項b))。ちなみに、車両の減価償却限度額は車両の取得年や燃料の種類により定められており、これを超える金額は、損金算入が認められていません(第34条第1項e))。
  3. 交際費は法人税法上損金算入できますが、10%課税されます(同条第7項)。
  4. オフショアへの支出は所定の場合により、損金算入できないだけでなく、35%、55%の課税が行われます(同条第8項)。
  5. 出張手当や移動行程表がない従業員の私用車の業務使用に係る精算費用には、所得税法で個人に課税される部分(被雇用企業の業務のために私用車で使用する場合、企業が個人に精算する法定制限額を超える金額は個人の所得税カテゴリーAで課税されます)を除き、5%が課税されます(同条第9項)。つまり、そもそも損金算入できない上に、追加的に課税もされるということですね。
  6. 経営中枢に近い管理職者に対する規定外の過大な賞与・変動報酬(年間報酬の25%超かつ27,500ユーロ超)や退任に際しての過大な補償金には、その35%が課税されます(同条第13項)。
  7. 前述の課税要因が生じる課税期間に欠損金を計上した納税者は、所定の税率に更に10%加算して課税されます(同条第14項)。例えば、前述の車両関連費用が発生する年に欠損金を計上したら、35,000ユーロ以上のガソリン車に係る費用に対する課税は、35%+10%=45%となります。
  8. 簡便法適用の場合、前述のうち、交際費、出張手当や私用車使用に係る精算、管理職者への過大な報酬・退任補償金等適用されない課税項目があります(同条第15項)。
  9. 加算税が課税される場合、税額からの控除を享受できないことになっています(同条第21条)。

欠損金の繰越控除

欠損金の繰越控除は、課税所得の65%相当額を上限とし、繰越可能年数の制限は撤廃されています(第52条第1項第2項)。

税額控除

税額控除には優遇税制・外国税額控除といくつか種類があるのですが、ここでは外国税額控除に絞って述べたいと思います。

  1. 海外源泉所得について、租税条約非締結国を源泉とする場合は、海外支払済み税額とポルトガルで支払うべき税額とを比較し、いずれか低い方につき、租税条約締結国源泉所得の場合、支払われた税額を上限として、控除が認められます(第91条第1項第2項)。仮に税額が十分でないために、全額控除できない場合は、残額を翌5年間に渡って控除することができます(同条第4項)。
  2. 直接又は間接に10%以上の持分又は議決権を有する海外事業体からの利益・剰余金の分配につき受取配当金の益金不算入の規定(第51条)を適用しなかった場合は、税額控除が可能です(第91条-A)。

納税

7月、9月、12月15日(会計年度が暦年でない場合は、7か月目、9か月目、12か月目)に第105条に基づき算定された金額の予定納税(第104条第1項a))、5月31日(会計年度が暦年でない場合は、5か月目)に確定申告納税を行います(同条第1項b))。但し、納付額が200ユーロ未満の場合は、納付は免除されます(同条第4項)。

いかがだったでしょうか。やっちゃダメ!項目が結構細かく規定されていて、しかも税額が加算されたりするので、驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。加算・減算の各論にまではあまり踏み込みませんでしたが、ポルトガル法人税情報としてどなたかの参考になれば幸いです。

 

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